大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1056号 判決 1971年11月17日

控訴人 破産者株式会社双葉屋タオル店破産管財人 伊沢英造

被控訴人 深見こと 深美俊利

右訴訟代理人弁護士 木戸口久治

同 宍戸金二郎

右訴訟復代理人弁護士 池田和司

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立

控訴人は「1原判決を取消す。2被控訴人は控訴人に対し金四、〇〇一、四九二円及びこれに対する昭和四一年一二月三一日より支払済みまで年六分の金員を支払え。3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却を求めた。

二、控訴人の主張

(請求原因)

1訴外株式会社双葉タオル店(旧商号株式会社双葉屋商店、以下単に双葉屋という)は、昭和四三年三月三一日支払を停止し、支払不能となり、昭和四三年九月二七日、東京地方裁判所において破産の宣告を受け、右同日控訴人がその破産管財人に選任された。

2これより先、双葉屋は原判決別紙目録(但し、原判決七枚目裏三行目、一一行目、同八枚目表四行目、八行目の各「(一)」をいずれも「(イ)」と訂正し、同七行目と八行目の間に「振出日同年八月一九日」を挿入する)記載の約束手形六通を所持し、訴外有限会社吉村商会(以下単に吉村という)に対し右手形上の債権を有していたところ、昭和四三年二月一五日、被控訴人に対する金二〇〇万円の債務についての代物弁済として右手形上の債権(金額合計四、〇〇一、四九二円及びこれに対する昭和四一年一二月三一日から支払済みまで年六分の利息)を譲渡した。

3双葉屋の右譲渡は、破産法七二条一号に該当するので、控訴人はこれを否認する。

すなわち、双葉屋代表取締役村上文勇は、右債権譲渡が破産債権者を害することを知ってこれをなしたものであり、それは次の事実から明らかである。

(一)双葉屋はその頃訴外有限会社西田タオル店外二七名の債権者に対し合計約三、〇〇〇万円の債務を負うのに、その売掛代金債権は総額約九〇〇万円に過ぎず、その内最も多い金四〇〇万円余の右手形債権を被控訴人に譲渡した。

なお昭和四五年二月二七日に至って、被控訴人は吉村より裁判外の和解で右譲受債権の内金一、八五二、〇〇〇円の弁済を受け、その余を放棄した。

(二)被控訴人は、昭和四三年頃株式会社双葉を設立し、その代表取締役となり、双葉屋の営業していた店舗において同種の営業を続け、双葉屋の得意を引継ぎ、その本店を双葉屋の代表取締役であった村上文男の住所である東京都江東区深川新大橋二丁目一五番一四号においた。

(三)被控訴人訴訟代理人木戸口久治は、双葉屋の監査役であったし、双葉屋の吉村に対する右手形金請求訴訟に双葉屋の訴訟代理人として関与した。そうして右訴訟が控訴審に係属中の昭和四三年九月一三日の口頭弁論期日において、被控訴人が右債権を譲受けたとして参加し、双葉屋が脱退した。

従って、控訴人は被控訴人に対し手形債権の債権額の支払を求める。

(予備的請求原因)

4仮に以上の主張が理由がなく、債権金額の請求が許されないとしても、次の理由で同額の損害賠償を求める。

(一)被控訴人は前述のとおり双葉屋の訴訟に参加し、その仮執行宣言付の第一審判決の執行を妨げて、控訴人の右債権を侵害した。

(二)被控訴人は控訴人の本件否認権行使に基き控訴人に返還すべき手形債権金四〇〇万円余の返還債務を履行しない。控訴人は被控訴人の右債務不履行によって、右同額の損害を蒙った。

(三)被控訴人は吉村との前述の和解によって、控訴人にその権利実現の方法を失わせて、右同額の損害を控訴人に与えた。

三、被控訴人の主張

(認否)

1控訴人主張1の事実及び2の事実は、代物弁済の点を否認し、その余の事実を認める。

被控訴人は双葉屋が、昭和四三年二月中旬頃、相当額の支払手形があってその決済資金の借用方を申入れたので、同月一五日、金二〇〇万円を貸し、その支払のために控訴人主張の約束手形債権を譲受け、その後昭和四五年二月二七日、控訴人主張の和解で弁済を受けたのである。

なお、右債権譲渡の通知は、債権者双葉屋から債務者吉村に対し、昭和四三年三月三〇日内容証明郵便でなされ、その頃右吉村に到達した。

2同3の事実は、株式会社双葉が双葉屋の得意を引継いだ点、木戸口久治が双葉屋の訴訟代理人として関与した点を否認し、その余の事実は認める。

3同4の事実はすべて否認する。

四、立証<省略>。

理由

一、請求原因1および2の事実は、代物弁済の点を除いて、当事者間に争いがない。

二、そこで、控訴人主張の債権譲渡が代物弁済としてなされたか否かは別として、まず、右譲渡自体が破産法七二条一号に該当するか否かを判断する。

被控訴人が昭和四三年頃株式会社双葉を設立し、その代表取締役となり、双葉屋の営業していた店舗において同種の営業を続け、その本店を双葉屋の代表取締役であった村上文勇の住所である東京都江東区深川新大橋二丁目一五番一四号においたことと、被控訴人訴訟代理人木戸口久治が双葉屋の監査役であったこと、さらに双葉屋の吉村に対する手形金請求訴訟が控訴審に係属中の昭和四三年九月一三日の口頭弁論期日において、被控訴人が右債権を譲受けたとして参加し、双葉屋が脱退したことは、当事者間に争いがないか、右事実をもって村上文勇が双葉屋の債権者を害することを知って債権譲渡した点の証拠ということもできない。

そうして、当審証人上田政吉、同村上文勇(第一回)の各証言および当審における控訴人本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

双葉屋は、昭和四一年一〇月頃、株式会社オリジナル・アイデアの倒産による手形の不渡から、その資金繰りが苦しくなり、昭和四二年九月には従来からの取引先である上野信用金庫からの融資も止められ、昭和四三年一月末の決算期には一、五〇〇万円の赤字をかかえたため、その債権者と交渉し赤字分だけを一応たな上げして営業を続けることとした。そうして昭和四三年九月頃(破産宣告後)村上文勇は控訴人に対し双葉屋の資産は売掛金約四〇〇万円と本件約束手形約四〇〇万円で、債務は約三、〇〇〇万円だと報告した。

そうして右認定に反する証拠はない。

また<証拠>を綜合すれば、次の事実が認められる。

すなわち、双葉屋は前記認定のとおり、債権者から赤字分だけの棚上げを認めてもらって営業を続けたが、なお営業資金を必要としており、平和相互銀行を通じて中小企業金融公庫からの融資方申請中であったが、昭和四三年二月一五日、被控訴人は村上文勇から急を要する手形決済金の融資を依頼され、双葉屋に対し金二〇〇万円を利息、弁済期を定めず貸渡すこととし、その支払担保の意味で既に満期を遙かに過ぎた本件手形上の債権(当時手形金訴訟係属中のもの)を双葉屋から譲受けて、手形の交付を受けた(債権譲渡の点は、当事者間に争いがない。)。そうして右同日(同日大雪が東京都に降ったことは、公知の事実である)、西田巳喜夫の運転する自動車で、同人、村上文勇、被控訴人の三名が平和相互銀行銀座支店に赴き、被控訴人がその預金から金二〇〇万円の払出を受けて現金化し、これを村上文勇が受取り、直ちに上野信用金庫豊島町支店および三菱銀行本所支店を廻って、双葉屋の支払手形の弁済にあてた。その後昭和四三年三月三〇日、双葉屋は同月三一日附の内容証明郵便で右譲渡の事実を明かにするため本件手形上の債務者たる吉村に対し、右債権譲渡した旨を通知した。

右認定に反する右西田証人の供述部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実に照らせば、本件債権譲渡は、双葉屋の債務の弁済にあてるための緊急の借受金の必要からなされたものであり、村上文勇としても双葉屋の営業継続のために友人である被控訴人の協力を求めたものと解すべきである。従って、村上文勇が双葉屋の債権者を害する結果を認識しながらあえて本件債権譲渡をしたもの、すなわち村上文勇が破産債権者を害することを知ってこれをしたものと認めるべき証拠はないといわなければならない。

してみれば、控訴人の破産法七二条一号に基づく本訴請求は理由がない。

三、次に予備的請求原因について判断すれば、双葉屋の被控訴人に対する手形債権の譲渡が否認し得ないこと前記のとおりである以上被控訴人がその債権の確保、実現を求めるのは当然のことであって、特段に控訴人主張の債権侵害、債務不履行および加害の各事実を認めるに足る証拠はないので、右請求もすべて理由がない。

四、よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 田中良二 川添万夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例